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デジタル遺産とは

デジタル遺産とは

こんにちは。

司法書士法人リーガル・フェイス、司法書士の北です。

今回は、「デジタル遺産」についておまとめいたしました。

 

「資産管理のIT化」は世代を問わず進んでいます。

電子マネーの利用、ネット銀行・ネット証券での口座開設、仮想通貨の取引等々、スマホやパソコンによる財産管理、運用は若い世代の方だけでなく高齢者の方にも身近なものになっていると感じます。

 

しかしながら、「デジタル遺産」特有の問題はあまり認識されていません。

今回は、生前にできるデジタル遺産の整理や、死後の手続き方法等をご紹介いたしますの参考になさっていただけると幸いです。

 

 

1.デジタル遺産とは

デジタル遺産について法律上の定義はありませんが、財産的価値はあるが、紙の証書や手に触れられるものがなく、電子データとして端末やネット上に存在するものを指すことが多いようです。

 

亡くなった人が死亡時に有した財産は、原則として相続の対象となります(民法896条)。

現金や不動産など形のある財産だけでなく、デジタル遺産も相続の対象です。

 

デジタル遺産となった財産は、実体のある財産(不動産や現金など)と同じように、遺産分割した上で相続税の申告をする必要があります。

 

2.デジタル遺産の具体例

【具体例①】ネット銀行やネット証券の口座

  • 無通帳口座の残高
  • ネット銀行・ネット証券の口座

【具体例②】電子マネー

  • 交通系電子マネーのチャージ残高(PASMO等)
  • キャッシュレス決済サービスのチャージ残高(PayPay等)

【具体例③】各種ポイントやマイル

  • クレジットカード利用で貯まるポイント
  • デパートやショッピングモールの利用で貯まるポイント
  • 航空会社の「マイル」

【具体例④】新しい金融資産

  • 暗号資産(ビットコインなど)

【具体例⑤】「負の遺産化」するもの

  • 通販サイトの未決済分
  • サブスクリプション契約(動画見放題サービスなど)の利用料金

 

負の遺産化となるデジタル遺産は「亡くなった後すぐにサービス解約する」などの適切な死後事務を行わなかったことで発生します。たとえ本人がもう利用することがないとしても、契約が残っている限り、プラスの相続財産の中から決済しなければなりません。

 

言い換えれば、これらは相続人の損失に繋がる「負の遺産」です。

 

3.デジタル遺産の問題点

問題点①:相続人による把握が難しい場合がある

デジタル遺産は目に見えないため、遺品整理などの際に発見することは、決して容易ではありません。

 

実体のある資産であれば、故人の周囲に「紙の通帳」や「固定資産税の納税通知書」などが遺されます。

これにより、財産目録や遺言書を作成しないまま死亡した場合でも、家族や生活拠点を調べてもらうことで容易に遺産を発見できます。

 

一方で、端末やネット上で管理される資産の多くはほぼ完全にペーパーレス化されています。こうしたデジタル遺産の存在を家族に把握してもらうには、生前所有していたスマホ(あるいはパソコン)のセキュリティロックを解除し、中のデータを確認してもらわなくてはなりません。

 

専門業者に頼んでもロック解除がまったくできないといったケースでは、せっかくの遺産がまったく管理処分されないまま半永久的に「放置」されてしまいます。

 

問題点②:本人が認知症に陥った時のリスクもある

第2の問題は、本人の意思能力が衰えたときに資産管理が滞ってしまう点です。

 

問題点①で説明した通り、デジタル遺産の存在は周囲に気付いてもらいにくい上、そのアクセス方法は所有者しか知りません。

意思能力が衰え、セキュリティ情報が思い出せなくなってしまうと、資産の管理運用が滞ってしまう可能性があります。

 

このように管理に空白が生まれると、適切な運用ができず元本割れの可能性がある資産(株式・投資信託・証拠金取引の未決済建玉など)に関しては、いずれ含み損という「負の遺産」を相続人に負わせてしまうことにもなりかねません。

 

問題点③:相続手続きが確立されていない場合がある

デジタル遺産を相続する際には、ネット上でのやり取りが必要になるケースもあります。

対面式の窓口が設けられていなかったり、メールでの問い合わせにより事務手続きを進めるケースも少なくありません。

さらに、新しい分野でありますので、相続手続きが確立されていない資産があることも考慮する必要があるでしょう。

 

たとえば暗号資産(仮想通貨)の場合、日本の暗号資産交換業者の口座で保管されているものについては、相続手続きが確立されています。

これに対して、海外事業者が運営するウォレットサービスで保管されている暗号資産(仮想通貨)については、多くの場合、相続手続きが確立されていません。

 

また、買い物に利用できるポイントなどについては、利用規約によって相続が不可とされているケースもあります。

 

デジタル遺産の保管場所がわかっても、相続手続きが確立されていなければ、相続人がデジタル遺産をスムーズに取得できない可能性があるので注意が必要です。

 

問題点④:相続税の課税の仕組みが分かりにくい

デジタル遺産は、実体のある資産に比べて課税の仕組みが分かりにくいという点も注意が必要です。

ネットなどで収集した一般的な情報を元に相続税申告の手続きを進めると、申告漏れや過少申告が指摘され、ペナルティとして加算税が課税される恐れがあります。

課税額の計算や申告手続きは、やはり税務署や相続税申告に実績がある税理士に相談することが肝要でしょう。

 

4.デジタル遺産の相続手続き

デジタル遺産の相続手続きの流れは、一般的な遺産と基本的に同じです。

ただし、名義変更の方法と手続きについては、デジタル遺産の種類や保管サービスの利用規約などに応じて異なる点に注意してください。

 

デジタル遺産の相続手続きは、大まかに以下の流れで進行します。

 

①遺言書の確認
②相続財産および相続人の確定
③遺産分割協議

④遺産の名義変更・解約

⑤相続税の申告や納付

 

① 遺言書の確認

亡くなった人の遺言書があれば、原則としてその内容に従い遺産分割を行います。まずは遺品や公証役場、法務局をあたって、遺言書の有無を確認しましょう。

 

② 相続財産および相続人の確定

遺産分割を行う前提として、相続財産と相続人を確定する必要があります。

相続財産については、不動産は評価証明書、金融資産は残高証明書を取得し、相続時点の財産金額を確認しましょう。

 

相続人については、戸籍資料を取り寄せれば把握できます。

後述する相続税申告のことを踏まえますと、書類収集を専門家にお願いすることも検討しましょう。

 

③ 遺産分割協議

相続人全員で、デジタル遺産を含めた遺産分割の方法を話し合います。合意に至ったら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員が調印します。

 

遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を通じて遺産分割の方法を決定します。

 

④ 遺産の名義変更・解約

遺産分割の内容に応じて、遺産の名義変更を行います。たとえば、不動産については法務局での相続登記、預金については金融機関の相続手続きが必要です。

 

デジタル遺産の名義変更については、種類や保管サービスの利用規約などを確認して手続きを進めましょう。

 

⑤ 相続税の申告や納付

相続税の申告を要する場合は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に、税務署に対して申告書などを提出しなければなりません。

 

相続税の納付期限も、申告期限と同様です。

遺産が多岐にわたる場合などは特に早めに税理士に相談をすることが必要です。

 

5.デジタル遺産の取り得る生前対策

① 健康なうちに手がかりを残す

家族にデジタル遺産の存在に気付いてもらう上では、何よりも生前のうちに「どこに、どんな資産があるのか」を伝えておくことが大切です。

 

手がかりさえ残しておけば、実体のある資産の動き(通帳発行済みの口座の入出金明細など)と照合するだけで、容易にデジタル遺産の存在に気付いてもらえます。

 

② 資産情報を整理しておく

スムーズに相続手続きを進めてもらう上で、例えば「○○ネット銀行に口座がある」という情報だけでは足りません。口座番号や取引状況など、もっと具体的な情報が必要です。

 

【具体例】

 ☑ エンディングノートを有効活用し下記について記載をしておく

 ・デジタル遺産がどのくらいあるのかを示した一覧表を作成

 ・取引で使用していたパソコンやスマートフォンのパスワード

 ・デジタル遺産にアクセスできる専用ID・パスワード

 ・ネット銀行情報:銀行名・支店名、住所、電話番号、口座番号

 ・ネット証券情報:証券会社名・支店名、住所、電話番号、口座番号

 ☑ 遺言書には財産目録を添えて、デジタル遺産と実体のある資産をまとめて一覧化しておく

 

③ 生前に処分する

デジタル遺産を生前に現金化しておくのも一つでしょう。

相続人がデジタル遺産の手続きで手間取ることの無いように、生前に売却や円やドル等へ交換しておくのも良い方法です。

そうすれば通常の金融資産として、相続人は安心して相続手続きが行えるはずです。

 

④ 資産管理の引継ぎ準備をする

本人の健康状態に関わらずデジタル遺産の管理を続ける上で、前もって「万一の際は誰に管理をやってもらうか」を決めておくことも一つでしょう。

 

【具体例】

・元気なうちに後見人に指定して「任意後見契約」を結び、認知症発症と同時に財産管理に関する権限(代理権)が生じるようにしておく

・ 任意後見契約とは別に「死後事務委任契約」も結び、スマホやパソコン内にあるデータの処分(セキュリティ情報が書かれた電子メモ含む)を任せておく

・税申告については専門家に試算してもらう

デジタル遺産への課税に関しては、最新の実務知識を蓄積している税理士の判断を仰ぎましょう。

特に、仮想通貨や外貨建資産などの価値が変動しやすい財産があるケースでは、節税策を含めて「相続人の負担にならない方法」を個別にアドバイスしてもらえます。

 

6.まとめ

ネット銀行、ネット証券のオンライン口座を利用している方は増え続けています。デジタル化は便利な反面、相続後に家族の方がデジタル遺産の存在に気付かない、定期課金サービス(サブスクリプション)で課金され続けるなどトラブルになるリスクもあります。

 

デジタル遺産について、ご家族が内容をすぐに把握できるようにしておくことをまずは始めてみましょう。

 

離れて暮らしている兄弟姉妹の相続では、デジタル遺産の把握にどうしても時間がかかってしまいます。生前の準備はしておいて越したことはないでしょう。

 

そして、相続手続のなかでも、相続放棄や相続税申告は期限がありますので注意が必要です。

 

司法書士法人リーガル・フェイスは、デジタル遺産を含む相続財産の手続き、生前の遺言書起案についてもご対応しております。

 

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