相続によって、相続人は亡くなった方(被相続人)の一切の財産を引き継ぐことになります。
この財産には、権利だけでなく義務も含まれます。
今回は、この義務のうち金銭債務の相続による承継について考えてみました。
【目次】
1.債務とは
債務とは、ある人が他の人に対して一定の行為をすること又はしないこと(不作為)を内容とする義務のことです。つまり、金銭を支払ったり、物を引き渡したり、労働を提供したりする義務のことです。
金銭を支払う義務
ある物を買った場合(売買)の代金の支払いの義務やお金を借りた場合(住宅ローンなど)の借金の返済の義務など
物を引き渡す義務
ある物を売った場合の対象の物を渡さなければならない義務
労働を提供する義務
会社などに雇われた場合に会社のために仕事をする義務のことなど
ここでは、金銭を支払う義務となるお金を借りた場合の返済義務(金銭債務)について記載していきたいと思います。
2.相続が発生すると債務はどうなる
相続が発生すると亡くなった方(被相続人)の一切の権利義務が相続人に承継されます。
お金を借りた場合の返済義務(金銭債務)も例外ではなく相続人が全額承継します。
相続人がこの返済義務を免れたい場合には、基本的には家庭裁判所に相続放棄を申し立て受理されることが必要です。しかし、相続を放棄すると初めから相続人とならなかったものとなり、債務(マイナスの財産)だけでなく他の財産(プラスの財産)も一切承継できなくなってしまうため、よく考えて行うことが必要です。
なお、住宅ローンの場合には、団体信用生命保険に加入している場合は、保険から住宅ローンの残額が返済されるため、相続人は返済する必要がなくなります。
3.債務の承継手続き
相続が発生すると何も手続きしなくても相続人に債務が承継されることになります。
相続人が複数人いる場合には、金銭債務は、その相続分に応じて当然に分割されて各相続人に承継されます。
例えば、夫が亡くなり、その相続人が妻と子供2人の場合の相続分は、妻が2分の1、子供は4分の1ずつとなります。そして亡夫が100万円の借金を負っていた場合、妻は50万円、子供2人は25万円ずつ承継することになります。
それでは、全ての債務を相続人のうちの一人が引き受けることができるのでしょうか?
その方法として、遺産分割の方法と債務引受の方法が考えられます。
遺産分割の方法
そもそも債務を遺産分割の対象とできるのでしょうか?
この点について、裁判例では債務は前述のとおり相続人全員に相続分に応じて当然に分割されるため遺産分割の対象とはならないと判断しています。
しかし、債務も相続財産(マイナスの財産)のため、相続人全員が合意すれば遺産分割の対象とすることができるものとして実務上は取り扱われています。
そのため、相続人全員が合意すれば、相続人のうちの一人が引き受けることができます。なお、遺産分割の効力は相続開始時に遡って生じるため、初めから債務を承継した相続人だけが債務者となります。
債務引受の方法
債務引受とは、ある債務者の債務を他の者が引き受ける契約です。
相続による債務の承継は前述のとおり相続人全員に相続分に応じて当然に分割されます。分割されたことを前提として、相続人同士が合意して、相続人の一人が他の相続人の債務を引き受けることになります。
しかし、どちらの方法でも債権者の承諾がなければなりません。
実際の住宅ローンについては、債権者である銀行の承諾を得て、相続後も住宅に居住する相続人が債務を引き受けることが多いようです。
その方法は、遺産分割の方法、債務引受の方法のどちらもありますが債権者である銀行から指定されると思われます。
4.登記手続き
住宅ローンの場合には、住宅に抵当権が設定されてることが通常です。債務に承継があり抵当権の債務者に変更が生じた場合には、その変更登記を行うことになります。
<相続人が一人の場合>
相続を原因として、債務者をその相続人に変更する登記をします。
<相続人が複数で遺産分割により一人が債務を承継した場合>
相続を原因として、債務者を債務を承継した相続人に変更する登記をします。
<相続人が複数で債務引受により一人が債務を承継した場合>
一度相続を原因として、債務者を相続人全員とする変更登記をしたうえで、次に債務引受を原因として、債務者を債務を引受けた相続人に変更する登記をします。
なお、団体信用生命保険に加入している場合は、保険から住宅ローンの残額が返済されるため、債務者の変更登記ではなく、抵当権の抹消登記をすることになります。
5.最後に
いかがでしたでしょうか。
今回は相続による債務、特に金銭債務の承継について記載いたしました。
相続発生時は、いろいろな手続きで忙しくなりますが、債務についても忘れないようにご注意ください。
リーガル・フェイスでは、相続による債務者の変更登記のお手伝いなども行うことが可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
四年制大学の法学部在籍時に、友人と一緒に司法書士資格の勉強を始める。大学を卒業した年に見事合格を果たした後、司法書士事務所へ入所し、商業登記を中心に経験を積む。その後、30歳を迎えることを機に一般企業の法務部へ転職。10年ほど司法書士業界を離れていたが、数年前に再び司法書士業界へ。そして幅広い業務経験を積むため、2022年リーガル・フェイスへ入所する。休日は2児の父として趣味の料理を振る舞う。得意料理はグラタン、好きな食べ物はラーメンと焼肉。