こんにちは。リーガル・フェイスの渡部です。
相続が開始した際に、遺産分割前に亡くなった方の預貯金を払い戻す方法について、最近改正された民法をみていこうと思います。
目次
1.はじめに
銀行は、預貯金者が亡くなったことを知ると、亡くなった方の預貯金口座を凍結します。預貯金口座が凍結されると、相続人は預貯金を引き出すことができなくなります。この預貯金を引き出すためには、原則として、相続人全員で遺産分割協議を完了させた後に預貯金を承継することになった相続人から払い戻し請求することになります。相続人全員がすみやかに合意して短い時間で遺産分割協議が成立すれば良いのですが、相続人間で仲が悪かったり、争いがある場合、遺産分割協議が成立するまでに長時間を要することもあります。そうなると、その間預貯金を払い戻すことができなくなってしまいます。
2.民法改正前の預貯金債権の考え方
従来、預貯金債権は、相続時に相続分に応じて当然に分割され、遺産分割の対象ではなく、各相続人に相続分に応じて自動的に相続されると解釈されておりました。
そのため理論上は、各相続人は銀行に対して、自分の相続分に応じた預貯金の払い戻しを請求することができることになります。そのように対応してくれる銀行も存在しました。(実際には、大多数の銀行では、相続人全員からの実印付きの同意書を提出するか、遺産分割協議が完了した後に遺産分割協議書を提出しなければ、払い戻しに応じてくれませんでした。)
そのような中、平成28年に最高裁判所で、預貯金債権は、相続時に相続分に応じて当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象となり、遺産分割までの間は、共同相続人全員の同意を得た上で行使しなければならないという判例が出されました。
これにより、全ての銀行において、相続人全員からの実印付きの同意書類を提出するか、遺産分割協議完了後に遺産分割協議書を提出しなければ、預貯金の払い戻しに一切応じないことに統一されることになりました。
そのことにより、葬儀費用や相続債務の弁済をする必要がある、被相続人から扶養を受けていた相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により、被相続人の預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があっても、一切できなくなったのです。
3.民法改正「預貯金債権払い戻し請求」制度の創設
相続人の資金需要に対応できるようにするために、各相続人が、遺産分割前に一定の範囲で預貯金を、裁判所の許可などを得ることなく、払い戻すことができるようになりました。
一定の範囲とは、被相続人の遺産に属する相続開始時の預貯金債権の金額の3分の1に、払い戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額です。
また、銀行ごとに法務省令で定める額(令和4年12月時点では150万円)が上限となります。
この範囲内であれば、各相続人は単独で、払い戻しの理由を問わず、預貯金を払い戻すことができます。
なお、この払い戻しを行った相続人は遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
4.具体例
次に、被相続人A、相続人は妻B、子Cとして、妻Bが払い戻しを請求する場合を、具体的に見ていきたいと思います。(妻B、子Cの相続分は各2分の1となります)
①A銀行の普通預金に150万円ある場合
150万×1/3×1/2=25万円まで
②A銀行の普通預金に150万円、定期預金90万円ある場合
普通預金から、25万円まで
(150万×1/3×1/2=25万円)
定期預金から、15万円まで
(90万×1/3×1/2=15万円)
普通預金か定期預金だけから40万円を払い戻すことはできません。
③A銀行の普通預金 600万円、定期預金600万円
普通預金と定期預金を合わせて150万円まで
上記の計算式に従うと、
普通預金は、600万円×1/3×1/2=100万円まで
定期預金は、600万円×1/3×1/2=100万円まで
となりますが、銀行ごとに150万円までという限度があるため、100万円×2=200万円を払い戻すことはできません。
この場合、普通預金から100万円・定期預金から50万円と払い戻すことも、普通預金と定期預金から75万円ずつ払い戻すこともできます。
5.最後に
この払い戻し請求をするために、金融機関にどのような資料を提示する必要があるかは法律上規定されておりません。少なくとも①被相続人が死亡した事実、②相続人の範囲及び③払い戻しを求める者の法定相続分が分かる資料の提示が必要と考えられております。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍の謄本、相続人全員の戸籍謄本が必要になると思われます。
そのため、緊急の資金需要が予想される場合には、早めにこれら相続関係の資料を集める必要がございます。
リーガル・フェイスでは戸籍謄本等の収集の支援等、相続手続きの各プランを準備しております。無料相談も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
四年制大学の法学部在籍時に、友人と一緒に司法書士資格の勉強を始める。大学を卒業した年に見事合格を果たした後、司法書士事務所へ入所し、商業登記を中心に経験を積む。その後、30歳を迎えることを機に一般企業の法務部へ転職。10年ほど司法書士業界を離れていたが、数年前に再び司法書士業界へ。そして幅広い業務経験を積むため、2022年リーガル・フェイスへ入所する。休日は2児の父として趣味の料理を振る舞う。得意料理はグラタン、好きな食べ物はラーメンと焼肉。