こんにちは。リーガル・フェイスの士業コラムをご覧頂きましてありがとうございます。
当コラムでは以前より相続登記義務化に関する情報をいくつかご紹介してきましたが、今回もその関連制度である「所有不動産記録証明制度」についてお話ししようと思います。
目次
1.はじめに
相続登記が行われないことを主な原因とする「所有者不明土地の増加」がかねてより大きな社会問題となっていましたが、その予防策のひとつとして整備されたのが相続登記の義務化です。相続登記義務化は問題解決の一端を担う制度として期待を集める一方で、同時に相続人に対して手続的負担を強いるものにもなります。
そこで、相続人の負担を緩和させ相続登記申請義務の実効性を確保する目的で、相続登記義務化とパッケージでいくつかの制度が整備されました。
【新設される(された)制度】
◆相続人申告登記
◆相続登記の登録免許税の負担軽減
◆所有不動産記録証明制度 など
※「相続人申告登記」と「登録免許税負担軽減」についてはこちらをご参照ください
【新制度】相続人申告登記とは?相続登記をすぐに申請できない場合の選択肢
【法改正】相続登記の登録免許税の免税措置が延長・拡充されました!
今回はこの中の「所有不動産記録証明制度」をご紹介致します。
2.所有不動産記録証明制度の概要
(1)現状の問題点
現行の不動産登記法上では、登記記録は不動産ごとに作成されており、全国の不動産の中から特定の者(例えば被相続人)がどの不動産を所有しているかを網羅的に抽出・調査する仕組みはありませんでした。その結果、家族が死亡しその相続手続きをする際に、被相続人がどの不動産を所有していたかを相続人が把握しきれず、見逃された不動産について相続登記がされないまま放置されてしまう事態が少なからず発生していました。
(2)所有不動産記録証明制度とは
そこで考えられた制度が「所有不動産記録証明制度」です。
これは、特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度です。
相続登記の義務化に伴い、相続人において被相続人名義の不動産を把握しやすくすることで。相続登記の申請にあたっての手続的負担を軽減するとともに相続登記漏れを防止する観点からこの制度が新設されました。
(3)誰が請求できるのか
- 本人(個人・法人)
※自らが所有権登記名義人として記録されている不動産について請求可能
- 相続人その他の一般承継人
※被相続人その他の被承継人に係る不動産について請求可能
ある特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧的に把握するニーズは、より広く生存中の自然人(個人)のほか、法人についても認められるとの指摘がされていることから、これらの者についても所有不動産記録証明制度の対象としつつ、プライバシー等も考慮された結果、請求権者が上記の通り限定されました。
単純に、個人を対象とした「所有権登記名義人の相続登記漏れを防止させる為の仕組み」にとどまらず、生存中の個人及び法人についても対象とされていることから、自己所有不動産の確認方法としても高い利便性を持つものになると考えられます。
【参考】
改正不動産登記法
第119条の2(所有不動産記録証明書の交付等)
1 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。
2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。
3 前2項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。
4 (略)
(4)いつから施行されるのか
本コラム作成時点(令和4年11月)でまだ施行されておりません。
所有不動産記録証明制度は令和3年の不動産登記法改正により新設された制度ですが、実際に利用できるタイミングとして令和8年4月までに施行される事となっています。
3.名寄帳との違い
さて、所有不動産記録証明制度が「特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度」であることをお話ししましたが、これによく似た制度に「名寄帳」というものがあります。
名寄帳とは、「市区町村が作成している固定資産課税台帳を所有者別に一覧表でまとめたもの」です。
現在、相続財産の調査をする際によく利用されるものであり、内容としても所有不動産記録証明制度とよく似ているように思われます。
しかしながら、名寄帳で調査できる不動産は該当する市区町村内のものに限られ、全国の不動産を網羅した証明書ではありません。例えば東京都新宿区と東京都渋谷区に不動産を所有していた被相続人の財産調査をする際、新宿区で発行される名寄帳には新宿区の不動産しか記載されないという事になります。
一方で、所有不動産記録証明書はエリアを問わず全国すべての不動産が網羅的に記載されます。被相続人の財産把握の観点で非常に有用であり、相続登記漏れ防止の対応策として広く活用されていく事が見込まれます。
4.所有不動産記録証明制度の課題
ここまで所有不動産記録証明制度の利点をご紹介してきましたが、利用する上で気を付けなければならない点もあります。
本制度は所有権登記名義人の氏名・住所を基にデータベースから該当不動産が調査されます。
結婚や引越しなどで氏名・住所が変更したが、不動産の変更登記をせずに登記記録が古い情報(旧姓・旧住所)のままの場合、現在の情報とデータベース上の情報が異なってしまうため検索結果から該当不動産が漏れてしまい、所有不動産記録証明書に記載されない状態となってしまうのです。
もちろん現時点では施行前のため不明点もありますが、実際の運用では過去の住所や氏名も含めて所有不動産記録証明書の交付申請をしていく流れになるかもしれません。
なお、住所変更登記の義務化についても令和8年4月までに施行されることが決定しております。これによって登記記録の更新が促進されれば、所有不動産記録証明制度もより活用しやすいものとなるでしょう。
5.最後に
さて、今回は新制度の所有不動産記録証明制度についてお話しさせて頂きました。
運用に若干の注意点こそあれど、財産調査に非常に有用な制度となるでしょう。
相続手続きは往々にして煩雑なものと捉えられがちですが、本制度のように知っておくと効率的かつより確実に手続きを進められる制度が数多くあります。
大切な方の相続手続きをしっかり行いたい、でもいろいろと不安・・・
そんな相続人の方のお役に立てる情報を今後もお伝えしていきます。
また、リーガル・フェイスでは新制度もしっかり活用して、相続手続きの各プランを準備しております。無料相談も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
大学(法学部)を卒業後、リーガル・フェイスへ入所。そこから14年間、補助者として不動産売買に伴う登記をメインとして業務に邁進し、2021年より相続・商業課へ異動。ただ「こなす」のではなく、自分だけの「付加価値」を付けながら一人ひとりのお客様へ最善のサービスを提供できるよう、新たな環境で日々勉強中。趣味はランニング、好きな食べ物は唐揚げと夏野菜(ナス、トマト、オクラなど)。