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遺留分放棄とは? メリットや手続き方法を司法書士が解説!

遺留分放棄とは? メリットや手続き方法を司法書士が解説!

こんにちは。リーガル・フェイス相続部門の北です。

今回は遺留分放棄についてお伝えいたします。

相続時の争い防止のために「遺留分放棄の制度を利用できないかしら」と相談を受けることがありますがよくよくお話を伺うと、相続放棄のことを想定されていらっしゃるのではと感じることもございます。
今回はその辺りも比較しながらおまとめいたしました。

1.遺留分放棄とは?

遺留分放棄について詳しくご説明する前に、まず“遺留分”についてご説明いたします。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、相続人である以上「最低限相続できる遺産取得割合」のことを言います。
民法は、一定の相続人に対する生活保障、相続人間の公平な分配の確保という観点から、被相続人となる人(以下「被相続人」という)の自由な財産処分について一定の制限を加える遺留分制度を設けているのです。

遺留分は相続が開始した時に初めて発生するものであり、被相続人が相続開始前に、結果的に遺留分を侵害するような処分(生前の贈与など)をしたとしても、当然に無効になるものではありません。
相続開始後も、遺留分を害する被相続人の処分が当然に無効となるのではなく、遺留分を侵害された者が、遺留分を侵害して権利を取得した相続人や受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができるに留まります。

遺留分放棄をするということは、遺留分を侵害されても遺留分侵害額請求はしませんよという意思表示をするようなものです。遺留分を有する相続人が遺留分を放棄すれば、相続人や受遺者へ遺留分請求ができなくなるので、遺留分を巡るトラブルの防止となり、被相続人の意思が活かされやすくなるとも言えます。

遺留分権利者



遺留分割合・遺留分額



※令和1年7月1日以後に開始した相続については、改正相続法で定められた「遺留分侵害額請求」の適用がございます。本コラム内容は、改正相続法施行後の「遺留分侵害額請求」に基づいて説明しております。なお、令和1年7月1日より前に開始した相続については、改正前の「遺留分減殺請求」の対象となります。詳細については弊所までお問い合わせください。


それでは遺留分放棄のメリットについて、相続での立場毎に考えてみましょう。

被相続人にとってのメリット

① 被相続人の希望通りに遺産を相続させることが可能

被相続人が、遺言や贈与によって特定の相続人や第三者に多くの財産を残したいと考えていても、死後に遺留分権利者から遺留分侵害額請求が行われると、その希望を実現できなくなります。遺留分放棄により、望み通りに特定の人に遺産を集中させることが可能となります。

② 相続トラブルの懸念がなくなる

被相続人は、当然ですが自分の死後の相続トラブルなど望んでいません。親であれば、死後に子ども達が財産争いをすることは何としても避けたいでしょう。しかし遺留分侵害額請求が起こったら相続人同士の対立を避けるのは難しいでしょう。遺留分放棄によりそのようなトラブルの防止にもなることが期待されます。

相続人(遺留分放棄者)にとってのメリット

① 生前に放棄すると代償金等を受け取れる

遺留分の生前放棄が許可されるためには、被相続人から遺留分放棄者へ遺留分に相当する代償を支払う必要があります。つまり遺留分を有する相続人が生前に遺留分放棄するなら早々にお金やその他の財産をもらうことができるので、一定のメリットがあるといえます。

② 親族関係を円満に保てる

自らの遺留分が侵害されているという事実を知ると、相続人は遺留分侵害額請求をするか否かを検討し、悩むことになります。しかし遺留分放棄をしていれば、遺留分額を超えて財産を受領した者とのトラブルを回避することができます。遺留分侵害額請求により、親族関係が対立してしまうケースもあると聞きますので、事前に遺留分放棄をしていれば親族間のトラブルの防止にもなります。

相続人(遺留分を超えて財産を受け取った相続人)にとってのメリット

① 代償金返還の負担が発生しない

遺贈や贈与が行われても、遺留分侵害額請求が起こったらお金を返さないといけないので負担が大きくなります。遺留分放棄により、相続発生後の遺留分侵害額請求のリスクなく、遺贈や贈与を受け取ったままにできるというメリットがあります。

② 遺留分トラブルを避けられる

被相続人の死後に遺留分侵害額請求をされると、遺留分権利者と遺留分を超えて財産を受領した者との間で大きなトラブルになるケースが多々あります。話し合いで解決できなければ遺留分権利者から家庭裁判所に遺留分侵害額調停を申し立てられ、それでも解決できなければ遺留分侵害額請求訴訟を起こされるケースもあります。トラブル解決までに何年もかかり、親族関係が破綻してしまうことも少なくありません。遺留分放棄により(放棄者の自発的な意思が必要ですが)こうした発展的な遺留分トラブルに巻き込まれることは避けられるでしょう。

2.遺留分に関する民法の特例による事業承継

遺留分は事業承継にも大きな影響を与えます。少し細かいお話になりますがお父様お母様が経営者である場合には、民法の特例について知っておいた方が良いと思いますので、おまとめいたしました。

先代経営者(例えば父)が、生前贈与や遺言によって後継者(例えば長男)に自社株式や事業用資産を集中させ、会社や個人事業の経営を承継させようとしてもうまくいかない場合があります。

それは、相続人には原則として「遺留分」があるからなのです。

推定相続人が複数いる場合、後継者に自社株式・事業用資産を集中させて承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求められた結果、自社株式や事業用資産を処分せざるを得なくなりそれらが分散してしまうなど、事業承継にとっては大きなマイナスとなる場合があります。上記のような遺留分の問題に対処するため、経営承継円滑化法にて「遺留分に関する民法の特例」(以下「民法特例」といいます)を規定しています。

民法特例を利用するには合意が必要

① 除外合意

生前に推定相続人が全員「株式について遺留分請求をしない」と合意しておくことにより、死後の遺留分請求が封じられることになります。

除外合意を行うことで他の相続人は、株式等を遺留分として主張できなくなるので自社株が分散されることを防ぎます。

② 固定合意

固定合意とは、後継者が贈与した株式等の評価額を合意時の額で固定する合意のことです。合意後に株式の価値がいくら上がっても遺留分侵害額の金額が上がらないので、支払いが容易になります。例えば贈与時に、株式の価格を1000万円で固定合意した場合、相続時に自社株が値上がりしていても遺留分としては固定された株価になるので、後継者の負担を減らす効果があります。ただし固定合意する評価額は適正であることが条件であり、税理士や弁護士、公認会計士などの証明が必要です。

③ 付随合意

合意にはもうひとつ、「付随合意」という除外合意と固定合意の双方、あるいはどちらか一方を合意した場合にすることができる合意があります。除外合意や固定合意をするときに、株式以外の他の財産についても遺留分侵害額請求の対象から外す定める合意です。

付随合意は、

・後継者が贈与を受けた株式等以外の財産
・非後継者が贈与を受けた財産 を遺留分算定基礎財産から除外できる
という合意です。

たとえば事業に使っている株式以外の財産を除外しておくと、後継者がスムーズに事業用資産を取得できて事業承継が円滑に進みます。

次に、民法の特例を受けるための条件と手続きをご説明します。

民法の特例を受けるためには?

条件について

  1. 中小企業者であること
  2. 後継者及び推定相続人全員と書面による合意書を作成すること
  3. 民法の特例を受ける時点で、3年以上事業を継続している非上場企業であること
  4. 株式の贈与を受ける後継者は、合意の時点において会社の代表者であること
  5. 後継者は自己保有分の株式と贈与分を合わせて、議決権の過半数を保有していること
  6. 合意の時点では、後継者の保有分の株式は議決権の過半数を満たしていないこと

手続きについて

  1. 後継者及び推定相続人全員との合意日から1ヶ月以内に経済産業大臣へ申請を行う
  2. 経済産業大臣の確認が下りたら1ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行う
  3. 家庭裁判所の許可が下り手続きが終了する

遺留分に関する民法の特例のまとめ

遺留分に関する民法の特例を利用するには、特に難しい手続きは必要ありません。ただ、合意書の作成は必須であり、推定相続人の一人でも反対すると特例の利用ができないのでご注意ください。被相続人となられる方を交えて、後継者以外の推定相続人とよく話し合いを行うことが大切ですし、その方たちが相続で不利にならないように配慮することが必要でしょう。

3.遺留分放棄の手続き

遺留分放棄手続方法ですが、被相続人の生前と死後で手続方法が異なります。

生前の遺留分放棄

被相続人の生前に遺留分放棄を行う場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。遺留分という民法で定められた相続人の権利を簡単に放棄できるようにしてしまうと、本人は放棄したくないと思っているのに、無理やり放棄させるなどといったことが起こる可能性が出てきてしまいます。そうならないようにするために、遺留分放棄を行う場合には、遺留分放棄を行う理由や意思がきちんとあるかどうかを家庭裁判所が判断するのです。

遺留分放棄の判断基準

遺留分放棄に関して家庭裁判所の判断基準は以下の3つです。3つの要件をすべて満たしている必要があります。

  • ①遺留分の放棄が本人の自由意志に基づくものであること

遺留分は相続人の権利となります。その権利を持っている人の意思により遺留分放棄を行うということが前提条件となります。強制されていないことを判断するために、②、③の要件を審査する必要があります。

  • ②遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること

好き嫌いなど被相続人の感情を理由とする場合や、長男は収入が安定しているからなどの経済状況を理由とする場合は、合理性や必要性に欠けると判断されることとなります。

  • ③遺留分放棄の“見返り”があること

遺留分放棄の代償として、遺留分相当の財産の生前贈与などがあった場合、合理性や必要性があるという判断にもなり、認められる可能性が高くなります。例えば、相続人が子2人で長男に遺留分放棄を行ってもらう場合で考えてみましょう。

長男と次男それぞれの遺留分は1/4となります。相続財産が1億円だった場合、それぞれの遺留分は2,500万円となります。長男に遺留分放棄をしてもらう場合には、2,500万円の代償=見返りが必要ということになります。

生前の遺留分放棄の申し立て方法は以下の通りです。


遺留分を請求する権利を持った相続人が申立てます。

申立人

被相続人が存命中であれば、いつでも可能です。

申立時期

被相続人となる者の住所地がある家庭裁判所です。

申立先

必要書類
  • 家事審判申立書
  • 土地財産目録
  • 建物財産目録
  • 現金・預貯金・株式等財産目録
  • 被相続人となる人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本

費用
  • 収入印紙:800円
  • 郵便切手:裁判所により異なりますので管轄裁判所に確認しましょう

申立をすると、1、2週間程度で照会書が郵送されてきます。照会書の各質問に回答を記入の上、裁判所へ返送します。 照会書に問題がある場合(申立人の遺留分放棄の意思表示の真意に疑いがある場合等)には、家庭裁判所から呼び出しを受け、そこで審問がなされます。

家庭裁判所において放棄意思の真意性、撤回の可能性、生前贈与等の有無、その他放棄の動機の合理性、申立人と被相続人との関係などについて調査が行われ、問題がなければ許可の審判が下されます。
遺留分放棄が認められた場合には、必ず証明書の発行を申請しておきましょう。遺留分放棄が認められたという事実は、申立を行った本人のみに通知されるため、他の相続人は本当に遺留分を放棄したのかどうかわかりません。そのため、証明書を発行してもらい、他の人たちと共有しておくのもよいでしょう。

裁判所HP「遺留分放棄の許可」

各書式についてのリンクは下記の通りです

裁判所HP「遺留分放棄の許可の申立書」

相続開始後の遺留分放棄

相続発生後の遺留分放棄の場合、家庭裁判所の許可は必要ありません。

相続発生後に遺留分放棄をする方法は非常に簡単です。遺留分権利者が他の相続人や受遺者などへ「遺留分を放棄します」と伝えればそれだけで遺留分放棄が成立します。ただし口頭では証拠が残らず、遺留分権利者が後で「そのようなことは言っていない」と主張する可能性があるので、書面で遺留分放棄の意思表示をさせるようお勧めします。

4.遺留分放棄と相続放棄の違い

遺留分放棄も相続放棄も同じように「放棄」という言葉がついていますが、その意味するところは全く違うのでしっかりと理解しておく必要があります。


相続放棄については過去のコラムでもおまとめしています。
本コラムと併せてご参考になさってください。

士業コラム「相続放棄はどうやるの?やり方まとめ【四コマつき】」


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5.よくある質問

放棄した遺留分はどうなりますか?

遺留分とは、あくまでも推定相続人が最低限保証される相続分の権利で、相続人によってその遺留分の値は変わります。遺留分を放棄した人がいたとしても、他の相続人の遺留分が増えるということはありません。

遺留分の放棄に応じない相続人がいる場合はどうすれば良いですか?

遺留分の放棄は放棄する相続人本人の意思が必要不可欠となりますので、遺留分放棄を希望していない相続人に強制することができません。

遺留分トラブルを防ぐために、何かいい方法はないか問い合わせを受けた際には、生命保険を利用することも一つですとお伝えしております。

生命保険は被保険者が死亡することにより、保険金受取人が保険金を受け取ることになります。つまり、法定相続分や遺産分割協議とは関係なく、被相続人が指定した者に保険金を遺すことができるのです。

遺留分の放棄が難しい場合は、保険金の受取人を一定の人に集中させ財産を遺すという方法を検討しても良いでしょう。

まとめ

被相続人の生前に遺留分放棄をするためには、家庭裁判所の許可という大きなハードルがございます。許可を得るための条件の一つとして、被相続人から放棄者への代償金の支払いも家庭裁判所が許可をする上での一つの重要な要素となります。

遺留分放棄をする方が、遺留分放棄の効果をよく理解し、撤回は基本的に不可であることを踏まえた上で、本制度を利用すれば、被相続人の方の安心感も増すでしょう。

弊所でも遺留分放棄手続きのお手伝いをしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

ご生前対策を検討される方は、お気軽にお問い合わせくださいませ。

「90歳を過ぎましたが、人生の最後を迎える準備ができておらず不安です。」

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