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相続放棄はどうやるの? やり方まとめ【四コマつき】

相続放棄はどうやるの? やり方まとめ【四コマつき】

 こんにちは。相続課の鶴巻です。

 今回は「相続放棄」を行うまでの簡単な流れについてお話したいと思います。

 「財産を相続する」又は「遺産」というと、一番に思いつくものは積極財産(プラスの財産)の承継という事かと思います。ただ、もちろん相続するという意味合いには積極財産以外に消極財産(マイナスの財産)もまとめて相続するという意味合いも含まれています。人の死亡により一定の親族(相続人等)に対して当然に生じる財産の包括的承継が「相続」ということになります。

 一般的にこの消極財産が積極財産より多い場合、相続人は「相続放棄」を検討することになるかと思います。

ここでは「相続放棄」を行うまでの一連の流れと相続放棄を行うとどのような効果が得られるのかを簡単にお伝えしたいと思います。

1.相続の選択肢は3つ!

相続人は、相続するかしないか、またどのように相続するかを選択することができ、その選択肢としては下記の3つがあります。どの行為を選択するのかは個別の事例ごとに相続人自身が判断することになります。

単純承認単純承認とは、相続人が、無限に被相続人の権利義務を承継することをいいます。一般的な「相続する」とはこの単純承認をする行為になります。
限定承認限定承認とは、相続人が相続によって得た積極財産の範囲内でのみ、相続人の債務および遺贈を弁済するという留保付きの相続の承認のことをいいます。この限定承認という行為は相続人全員から行わなくてはならず、相続人一人から行うことができません。
相続放棄相続放棄とは、積極財産と消極財産のすべての承継を拒否することであり、相続放棄をすることにより初めから相続人とならなかったことになります。上記の限定承認と違い、相続放棄は相続人の一人から行うことができます。

2.相続放棄できる期間や行為は?

続いて、相続放棄できる期間や行為について把握していきましょう。

熟慮期間はたったの3カ月?!

相続放棄は「勝手に財産を動かさないうちはいつでもできる」とのんびり考えていると、既に相続放棄ができる期間が過ぎていて申請ができなくなってしまうことがあるので注意が必要です。なぜなら、相続放棄には申述できる期限が定められているのです。原則相続人は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に相続放棄をしないと単純承認をしたことになり、以降相続放棄をすることが出来なくなってしまいます

 この3カ月の期間を熟慮期間といいます。この期間を短いと思うか長いと思うかは人それぞれの感覚かと思いますが、私はこの期間をとても短く感じました。というのもこの後紹介する相続財産の調査や相続人の特定作業を3カ月以内にすべて行わないといけないからです。ただこの期間にはきちんと理由があって、いたずらに遅延してしまえば、権利義務関係を複雑にさせ、債権者の権利を妨害してしまう恐れがあることから3カ月と定められています。債権者と相続人の立場との均衡を図りこの期間になっているのだと思います。

財産の処分行為

それでは熟慮期間内に相続放棄できれば、それまでに行った処分行為がチャラになるかといえばそうはなりません。
熟慮期間内でも一定の処分行為をしてしまうと「単純承認」したとみなされ、以降相続放棄が出来なくなってしまう恐れがあるのです。これを「法定単純承認」という呼び方をします。財産の処分行為とみなされるかどうかはその行為ごとの判断になるかと思われますが、判例などでいわれている一般的な処分行為とみなされるかどうかの対比を表でまとめてみました。

処分行為とならない行為処分行為となり得る行為
相続財産から被相続人の葬儀費用の支出債務の弁済
遺体や身の回り品、所持品の受領遺産分割協議の成立
崩れそうなブロック塀の補修工事家屋の取壊し

表でみると少し分かりづらいかもしれませんが、いわゆる保存・管理行為に当たる行為については法定単純承認とみなされず、相続財産の現状や性質を変える処分行為は法定単純承認とみなされてしまいます。

 例えば、相続財産からの葬儀費用の支出などは単純承認とは無関係に遺族として当然に行うべき行為といえるから処分行為とはいえず、逆に遺産分割協議については、相続財産につき相続分を有していることを前提に、それを処分するものであるといえるため法定単純承認の該当事由に当てはまることになります。

 ただこれらはあくまで一例に過ぎないので、相続放棄を検討されている方は熟慮期間中はむやみに相続財産の処分行為とみなされるような行為を行わないように充分気を付けてください。

3.相続放棄の事前準備~財産の把握~

 相続放棄をする前に、財産目録を作成し、財産を把握しましょう

 相続放棄とは、相続放棄をすることにより初めから相続人とならなかったことになり、消極財産から解放されるという意味合いの他に積極財産をも放棄をすることになります。

 例えば被相続人である父親が借金をしていたとわかり、慌てて相続放棄をした後に、借金は父親が生前に完済しており、逆に預貯金など積極財産が残っていた事例などがあります。

 この場合に一度相続放棄をしたけれど撤回したいなどと簡単に撤回することができません。「相続の承認及び放棄は民法第915条第1項の期間内でも、撤回することができない」と民法上規定されており(民法第919条第1項)、一度行った相続放棄や相続の承認は撤回することができないようになっています。

 これは相続の承認や放棄は相続人の資格を確定させる極めて重要なものであるから、一度相続の承認または放棄がされたにもかかわらず、その撤回が認められてしまうと、他の相続人や相続債権者等の立場を極めて不安定にしてしまうなど、相続による法律関係の安定を害することになるためです。

 こちらは熟慮期間内であっても同様で、いくら熟慮期間中であっても一度なされた相続の承認または放棄は撤回することはできません。そのため、選択をする前までに被相続人の消極財産はもとより積極財産についても全ての財産についてしっかりと調査を行い、自己にとってよりよい選択が出来るようにしましょう。


積極財産の調査

積極財産とは、不動産、預貯金、株式、保険などが考えられるかと思います。例えば不動産については登記済権利証、納税通知書などから把握でき、金融機関の預貯金債権は預金通帳や銀行からのお知らせ通知などから把握ができます。

生命保険会社の契約情報を照会できる新制度も!

 また最新情報として、一般社団法人生命保険協会は、契約者や被保険者が死亡した場合や認知能力が低下した場合、どの生命保険会社に契約があるのかを家族らが照会できる制度を令和3年7月1日から始めるとのことです。

 利用できるのは、契約者らが死亡した場合は法定相続人やその代理人、遺言執行者、認知能力低下の場合は法定代理人や3親等以内の親族らを想定しており、照会方法は、インターネットか郵送によるものとし、1回当たり3,000円の利用料となるそうです。

 申込みには、死亡を証明する公的書類や認知能力が低下したことを証明する医師の診断書の写しなどが必要となるとのことです。

 照会を受けた生命保険協会は、加盟する生命保険会社に照会した上で、保険契約の有無をまとめて回答する形になります。

 照会の結果、保険契約が見つかった場合、契約内容の確認や保険金・給付金の請求は、各保険会社と直接やり取りする形になりそうです。こちらは新しく始まる制度ですので、今後の詳細を待ちたいと思います。


消極財産の調査

 では逆に消極財産とはどのようなものが考えられるかというと、一般的に銀行や消費者金融からの借入金(例えばローン返済)などの債務が考えられるかと思います。

 このような債務は金銭消費貸借契約書や債権者からの督促状、又は預金通帳の出金履歴などからも把握することができます。

 また金融機関、クレジット会社および貸金業者は、正規の業者であればすべて個人信用情報機関に加盟しており、貸付けの際には、その旨を信用情報に登録するため、個人信用情報の開示を受けることで、借入先を把握することができます。契約書や債権者からの通知などでは債務の把握が出来ない場合は、こちらの機関の照会も是非ご検討ください。ただあくまで正規の業者に限られますので、いわゆる闇金や個人間の債務などについては照会の対象外となります。


信用情報機関主たる加盟企業

株式会社日本信用情報機関 (略称:JICC)

(https://www.jicc.co.jp)

消費者金融

株式会社シー・アイ・シー (略称:CIC)

(https://www.cic.co.jp)

クレジット会社

一般社団法人全国銀行協会 (略称:全銀協)

(https://www.zenginkyo.or.jp)

銀行

4.相続放棄の事前準備~相続人の把握~

相続放棄をする前に、相続人全員を把握しましょう。

今回の事例での相続関係図

相続放棄は相続人全員で行う必要はなく、相続人の一人から行うことができます。それではなぜ、相続人全員の把握が必要なのか。それはあなたが相続放棄をすることにより被相続人の負債を別の誰かが被る恐れがあるからです。例えば、相続人がAさん、Bさんの2名だった場合、Aさん一人が相続放棄をした場合、被相続人の負債を本来であればAさんBさんの二人で負うべきところをBさんが一人で負わないといけなくなります。

また別の事例では第一順位のX(現段階で法定相続人1名)が相続放棄したことにより、第2順位の人が望まれぬ相続人となる場合があるからです。例えば上の四コマ②のように、

X君が第一順位の相続人一人だった時にもしX君が相続放棄をした場合、父親の妹でX君の叔母にあたるYさんが相続人となります。ただX君が相続放棄をしたことをYさんに伝えず(Yさんが相続人になると知らなかった)そのまま放置しているといたずらに時間だけが経ち、そうこうしているうちにYさんに父親の借金の通知がきてしまうことになってしまいます。ただこの場合Yさんが既に相続放棄できなくなってしまうかといったら、決してそうではありません。Yさんは自己に相続があることを知ったときから3カ月以内に相続放棄を行えばよいからです。

ただ、後々の親族間のトラブルなども考えますと自己が相続放棄を行うことによって予期せぬ相続人になる人も含め全員の相続人調査を行い、3で調査した財産目録の開示や自己の相続放棄の有無などをしっかりと他の相続人に伝えることが相続人としての責任であるのではないかと思います。

 また相続放棄以外の限定承認、遺産分割協議など他の相続人全員の同意や意思が必要な行為も選択肢の一つとしてお考えのようなら早めに相続人の詳細は把握し、相続人間で適宜連絡を取り合うことをお勧めいたします。


5.「相続放棄」と「事実上の相続放棄」の違い

 上記四コマのように相続人間全員で遺産分割協議を交わし、他の相続人が「負債も含めてすべて相続する」とした協議が成立したとします。この場合すべて相続分を受け取らないとした人は、自分は実質相続を放棄しているため債権者への支払義務はないとお考えになられる方が多いかと思います。

 上記のような「遺産分割」または「相続分の放棄」などは「事実上の相続放棄」と言われ、主として、特定の相続人に相続財産を集中することを目的としてなされるものです。

 メリットとしては、相続放棄と違って家庭裁判所に熟慮期間中に手続を行う必要がなく、いつでも相続人間で行うことができます。

 確かにこの遺産分割協議は相続人間では、協議成立と同時に死亡時に遡って有効になります。ただ相続放棄の効果と違って遺産を受け取らない人でも決して相続人の地位がなくなったわけではなく、Bが全ての負債を相続するとした協議書はあくまでAB相続人間に対して有効なだけで、この協議書をもって第三者である債権者に主張することができないのです。債務に関しては相続人は相続発生時から連帯責任が生じ、協議書の内容をもってしても、債権者にはその主張をすることはできません。これはあくまで相続人間で話合った内容を対外的に主張することができるとなると債権者の権利が害されてしまうことがあるためです。
そのため、すべての財産を負債も含め相続したくない人はこのような場合、家庭裁判所への「相続放棄」を行う必要があります。遺産分割協議を行って他の相続人が全て債務を相続してくれたと安心していると思わぬ落とし穴にはまってしまいますのでご注意ください。

 また、上記で述べた通り「遺産分割協議」という行為自体、法定単純承認となり、以降相続放棄することは原則できなくなってしまいます。


6.他の選択肢を考える

 上記1でご紹介したとおり、相続の選択肢は単純承認、相続放棄以外にも限定承認という方法やまた他の相続人間での遺産分割協議での承継等の選択肢が考えられます。

 上記の1から5での調査などを得て自己が最も良い選択を行えるようにしましょう。

 長くなってしまったので、限定承認とはどんな行為で、どのような効果が得られるのかはまた別の記事でご紹介したいと思います。


7.相続放棄することが決まったら

 上記1から3を検討し、その中でやはり相続放棄をした方がいいと判断した場合は、熟慮期間内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述書と添付書類を添えて相続放棄の申述を行う必要があります。

 この手続きは各相続人が単独で行うことが出来ます。実際の手続きの流れは次回の記事でお伝えしたいと思います。


8.相続放棄の効果と管理義務及び祭祀承継問題



 上記で述べた通り、相続放棄が無事に受理されると相続放棄の効果は遡及され相続放棄をした人は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます。

 では相続放棄をしたらすべての親族としての義務から逃れられるのでしょうか。答えはNOです。親族としての義務は大きく分けて二つあり、一つは管理義務ともう一つは祭祀承継問題です。この二つについては、以下で詳しく解説します。

管理義務

 管理行為の内容は、保存、利用、改良の各行為となります。相続放棄をした場合でも、相続放棄者は、それにより後順位相続人が財産管理を始めることができるまで「自己の財産におけるのと同一の注意」を持って管理を継続しなければならない(民法第940条第1項)と定められています。例えば最近問題になっている「空家問題」。相続放棄をしたら、倒壊寸前の空き家について相続放棄者は何らの処置も責任もないのでしょうか。

 
 法律では、空家等の管理者は周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとするとされており、この管理者には相続放棄者も該当します。

 市町村長は、倒壊寸前の建物などの空き家の管理者に対し建物の解体や修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を講ずるよう、助言もしくは指導、勧告又は命令を出すことができ、もし命令などを無視した場合は、市町村長自ら措置を実施でき、その費用を管理者に負担させることができます。

 また空き家の倒壊等により、第三者に損害を与えた場合には、これによる損害を賠償する責任を負う可能性もあるので、注意が必要です。

空き家に関する記事を過去にアップしているので、
興味のある方はチェックしてみてください。

空家(あきや)を放置するリスクと対策<前編>

空家を放置するリスクとその対策<後編>

祭祀承継

 民法第897条において「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する」とあり、祭祀財産や遺骨については相続財産には含まれず祭祀承継者が承継することになります。

ですので、逆をいえばいくら相続放棄をした人であっても祭祀承継者は祭祀承継の義務を負うことになります。慣習とは、社会生活における特定の事項について、反復して行われている慣わしが一種の社会規範になっている状態をいい、昔でいう家督相続をした長男などがそれにあたると思われますが、現代では、明確な慣習は認められることは難しいといわれています。
もし慣習が明らかではなく、親族間で話し合いがまとまらないときは、最終的に家庭裁判所の判断となります。


まとめ

 今回の記事では相続放棄をするまでの流れと相続放棄をした後の効果などを中心にお伝えしてきました。

 長くなってしまったので次回の記事では相続放棄申述実務編と称して実際に相続放棄をすることが決まった後、どのような手続を行うのかをより詳しくお伝えしたいと思います。


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