こんにちは。司法書士の田中です。
本日は前回に引き続き、遺言書の保管についてまとめてみました。
第18回では、遺言者による遺言書の保管申請手続きに関して解説しましたが、今回は遺言者が死亡した後に相続人等が行う各種手続き(遺言書保管事実証明書、遺言書情報証明書、遺言書の閲覧、申請書の閲覧、関係遺言書保管通知)について説明していきます。
なお、遺言書情報証明書及び遺言書保管事実証明書の交付請求については、法、政令及び省令のほか「令和2年5月11日付け法務省民商第97号遺言書保管事務取扱手続準則の制定について(通達)」(以下単に「準則」と言います)に詳細が定められています(交付請求の該当箇所は、準則第30条から32条まで)。
目次
手続きの大まかな流れ
身近な人が亡くなったら、上記の流れに沿って遺言を書いていたかどうかを調査します。
生前に遺言書の保管手続きをしたことを知らされていた場合は、いきなりStep.3へ進んで遺言書の内容を開示してもらって構いません。
一方で遺言書があるのかどうか分からない方は、まずは遺言の有無を確認する必要があります。
今回は遺言書の有無を確認する方法と、内容を確認する方法、両方の手続きについて解説いたします。
それぞれの証明書の違いについても分かりやすく説明しますので、参考にしてくださいね。
それでは詳細を見ていきましょう。
1.遺言書が保管されているかどうかを確認するには?~「遺言書保管事実証明書」~
遺言者が亡くなった後、残された家族や親戚が遺言者の遺言の有無を確認するためには遺言書保管事実証明書を発行する必要があります。これはあくまでも遺言の有無を確かめるためだけの手続きになりますので、遺言者が生前に遺言を保管した事実を知っている場合にはこの手続きは必要ありません。以下、手続きの詳細です。
(1)どこで誰が請求できるの?
申請可能な人:遺言書保管証明は、何人も遺言書保管官に対し、遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無、および保管されている場合はその交付の請求をすることができます[法第10条1項、省令第43項]。
申請する場所:保管事実証明書の請求は、現に保管している遺言書保管所以外の遺言書保管所の保管官に対してもすることができます[法第10条2項で準用する法第9条第2項]。
(2)請求書の内容
遺言書保管事実証明書の発行には、以下の請求書にご自身や遺言者の情報を記入の上、遺言書保管所に提出する必要があります。この書面は法務省のホームページからもダウンロードできますよ(法務省:遺言書保管事実証明書)。
①請求人の資格、氏名、住所、生年月日(※法人の場合は名称、会社法人等番号及び代表者の氏名[省令第33条第2項第1号])
②法定代理人が請求する場合は、その氏名及び住所[同項第2号]
③請求人または法定代理人の電話番号、その他連絡先[同項第3号]
④遺言者の氏名、生年月日、最後の住所、本籍、死亡年月日[同項第4号]
⑤請求の通数、手数料額、請求年月日、遺言書保管所の表示[同項第6号ないし9号]
(3)必要な書類
①交付請求書
②請求人の氏名及び住所を証する書面(住民票等)
③遺言者が死亡したことを証明する書類(戸籍等)
④請求人が相続人のときは相続人であることを証する書面(戸籍等)
⑤保管事実証明書の請求手数料は、一通につき800円です。
※請求人が法人のときは代表者の資格証明書(3カ月以内のもの)
例外あり!
請求人が遺言書保管官から関係遺言書保管通知[法第9条第5項、省令第48条]を受領しているときは、交付請求の記載事項及び添付書類が大幅に省略できます[省令第44条第2項]。
(4)遺言書保管事実証明書の内容
遺言書保管事実証明書は、認証文を付した上で、次に掲げる事項が記載されます。
①遺言者の氏名、生年月日
②請求人の資格、氏名、住所
③保管されている場合は、遺言書の作成年月日、保管所の名称・保管番号
④関係遺言書の保管の有無
(参考:法務省ホームページ)
2.遺言書の中身を見たいときは?~「遺言書情報証明書」~
遺言書の中身を確認したいときは、遺言書情報証明書を発行する必要があります。この証明書を発行することで、保管されている遺言がいつ保管申請がなされたのか、また遺言書に書かれている内容などを確認することができます。遺言書が保管されていることが分かった時点でこの手続きを行いましょう。以下、詳細です。
(1)どこで誰が請求できるの?
申請可能な人:遺言者の相続人[法第9条第1項第1号]、受遺者等[同項第2号、政令第7条]、遺言執行者等[同項第3号、政令第8条]
申請する場所:現に保管している遺言書保管所およびそれ以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対してもすることができます[法第9条第2項]。
(2)請求書の内容
①請求人の資格、氏名、住所、生年月日(※法人の場合は会社法人等番号及び代表者の氏名[省令第33条第2項第1号])
②法定代理人が請求する場合は、その氏名及び住所[同項第2号]
③請求人または法定代理人の電話番号、その他連絡先[同項第3号]
④遺言者の氏名、生年月日、最後の住所、本籍、死亡年月日[同項第4号]
⑤請求の通数、手数料額、請求年月日、遺言書保管所の表示[同項第6号ないし9号]
⑥相続人全員の氏名、生年月日、住所[同項第5号]
例外あり!
交付請求書に、遺言書保管事実証明書、遺言書情報証明書、関係遺言書保管通知書、法定相続情報一覧図の写しを添付した場合には、添付した書面に応じて記載事項の一部が省略できます[省令第33条第3項]。
(3)必要な書類
①交付請求書
②相続人の住民票等:3か月以内のもの[同項第2号]
③請求人の住所氏名を証するもの[同項第3号]
④法定相続情報一覧図の写し又は遺言者の出生から死亡までの戸籍[省令第34条第1項第1号]
⑤相続人の戸籍[省令第34条第1項第1号]
⑥遺言書情報証明書の交付手数料は、1通につき1,400円です。
※請求人が法人の場合は代表者の資格を証する書面:3か月以内のもの[同項第6号]
※法定代理人が請求する場合は、その戸籍等[同項第7号]
(4)遺言書情報証明書の内容
遺言書情報証明書は、認証文を付した上で、次に掲げる事項が記載されます。
①遺言書の画像情報[法第7条第2項第1号]
②遺言書の作成年月日、遺言者の氏名・生年月日・住所・本籍、受遺者・遺言執行者がいるときはその氏名・住所[同項第2号]
③遺言書の保管を開始した年月日[同項第3号]
④遺言書保管所の名称及び保管番号[同項第4号]
詳しくは法務省の公式ホームページに見本がございますので、そちらを確認してみてください。
3.遺言書を閲覧したいとき
遺言書を直接原本やモニターで確認したい場合は、遺言書保管所にて閲覧することができます。この閲覧方法ですと、家に持ち帰ってゆっくり確認…はできないのでご注意くださいね。
(1)どこで誰が請求できるの?
遺言書情報証明書の請求者と同じです(関係相続人等)。
(2)請求書の内容
閲覧請求書の記載事項は、遺言書情報証明書の請求と同じです[省令第37条第2項で準用する省令第33条第2項および第3項]。ただし、証明書の通数を記入する欄は除きます。
(3)必要な書類
遺言書情報証明書の交付請求と同様の書面です(省令38条で準用する同34条)。
(4)閲覧方法
遺言書の閲覧方法は
①原本
②遺言書保管ファイル(モニターでの閲覧)
の2通りあります。
①の原本を閲覧したい場合は、遺言書保管官から本人確認を受け、遺言書保管官の目の前で閲覧することができます[省令第39条で準用する省令第13条および第22条]。
②のモニターで閲覧したい場合も同様で、本人確認を受けた後に遺言書保管官立会のもと閲覧することになります。
(5)手数料
4.保管にかかる申請書を見たいとき
(1)閲覧できる書面
遺言書の閲覧は申請等をした遺言者が死亡している場合において、特別の事由がある場合のみ閲覧請求ができます。主に閲覧できる書面は以下の通りです。
①保管申請書、変更届出書(政令第10条3項の本文)
②遺言の撤回書(同条第4項の本文)
(2)閲覧請求できる人
①遺言者の相続人
②当該申請書・届出書・撤回書に記載された受遺者または遺言執行者等
(3)閲覧請求に必要な書類
遺言書保管事実証明書の交付請求にかかる書類と同じです。
(4)閲覧方法
遺言書の閲覧と同じです。
5.遺言書保管通知について
実はここまでの手続きが完了すると、他の相続人に保管事実について通知が出されます。簡単に言えば、誰か一人が遺言書情報証明書を受け取ったり、遺言を閲覧したら“相続人全員遺言が存在する事実を共有できる”ということですね。
以下、通知に関する詳細です。
(1)どういう場面で、誰に保管の通知がされるの?
①遺言書情報証明書を交付したとき→遺言者の相続人、遺言書に記載されている受遺者、遺言執行者
②関係遺言書(保管ファイル含む)の閲覧をしたとき→ 遺言者の相続人、遺言書に記載されている受遺者、遺言執行者
③保管申請の際に遺言者が特定の人に通知をするよう申し出があり、かつ遺言保管官が「遺言者が死亡した」という事実の確認をとったとき→指定された者(1人に限られる)
6.手続き詳細一覧表
保管手続きをした遺言は検認不要!
通常、自筆証書遺言書は家庭裁判所に検認をしてもらう必要があります。検認とはつまり、遺言書の偽造や変造を防ぐためのチェックにあたるのですが、その検認のための手続きをしたり相続人全員が立ち会ったりととにかく大変な作業になります。
今回の保管手続きを済ませておけば、遺言書保管所でしっかりと保管されるため偽造・変造といったことはあり得ません。こういう理由で、保管手続きを踏んだ自筆証書遺言書は検認が不要になりました。
保管手続きをしておくだけで残された遺族の負担も軽減されますので、是非活用したいですね。
解説は以上になりますが、もしご質問や不安なことがあればお気軽に私たちの事務所までお問い合わせください。
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「せっかく作った自筆証書遺言が家族にちゃんと見つけてもらえるか不安」という方は、保管制度の利用以外にも"公正証書遺言"の作成をおすすめしています。
「自筆証書遺言をちゃんと見つけてもらえるのか不安です。」
北海道日高町生まれ、東京育ち。東京法務局などで40年余り登記・裁判の実務経験を経て、平成28年司法書士登録。同年に司法書士法人リーガル・フェイスへ入社。入社後、法人の顧問として、若手社員の育成等に取り組む。